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JOURNAL

2025/05/02 15:21

TEXT:Masahiro Sakurai

職人さんとの対話 ワイシャツ職人 / PORTER CLASSIC 2025 S/S カタログ「ハルナツ25」より

職人さんとの対話 ワイシャツ職人 / PORTER CLASSIC 2025 S/S カタログ「ハルナツ25」より

 ポータークラシック(以下PC)––おかげさまでロールアップシャツが10周年を迎えます。本当にありがとうございます。今日は作られた当時のことですとか、シャツ作りのことなど、お話を聞かせていただきたいと思います。

 職人さん––もうそんなになりますか。こちらこそありがとうございます。宜しくお願いします。

 PC––シャツ作りを始めてどれくらい経ちますか。

 職人さん––30年にならないくらいです。25年くらいですかね。

 PC––始められたきっかけはどのようなものでしたか。

 職人さん––元々パリにいたんです。向こうで洋服の専門学校を出た後、コレクションブランドのアシスタントに入りました。そのアトリエでアシスタントは僕だけで。コレクションの前とか忙しい時期になると、人がどっと増える。そんな感じのところでした。いつもいるのはオーナーと僕一人なので、一緒にご飯を食べて、犬の散歩に行ったり、なんでもやっていたんですよ。テーラードが得意なブランドで、ものづくりもスーツ、シャツはもちろん、色々作っていました。ある時、オーナーがシャルベでオーダーしたシャツを、『これすごいだろう』みたいな感じで見せてくれて。触らせてもらったら、うわ凄い!って。こんな高番手の綺麗な生地は、それまで見たことがなかったので、すっごいなと思ったんです。他のウールのスーツ生地とか、いろんな生地を触っているのもいいんですけど、僕はシャツ生地に強く惹かれましたね。それでシャツ作りをしようと。

 PC––なぜシャツ生地にそこまで惹きつけられたのでしょうか。

 職人さん––シャツ生地って、触った感触がもう気持ちいい。肌の当たるこの感覚っていうのも、コットンの良さですよね。パリで仕事をしていた時もたくさんの生地スワッチ(見本)を見ていくんですが、めくっていくときにウールをずっと触っていて、そこからシャツになるともう、手が気持ちいいんですよ。上着のものって、選ぶのに色とか柄の方が大事になることがありますけど、シャツ生地って単純に気持ち良さ、そこだけで選べる。感覚的に、これめちゃくちゃ気持ちいいっていうそれだけで。今シャツ一本でやっていますけど、そう考えたきっかけは、そこでした。

 PC––シャツ作りの修行はどのように?

 職人さん––日本に戻って、オーダーシャツの工場で働きました。その時はもう一日中縫製してました。朝の8時半にスタートして、夜の10時半ぐらいまで。お昼1時間、夕方15分ぐらい休むだけ。という生活をずっと続けていました。先輩の職人に色々教えてもらって、政治家の方や皇族の方々のシャツも縫っている工場だったので、技術的なことの質もとても高くて勉強になりましたね。

 PC––ポータークラシックのシャツを初めて作っていただいた時のことは覚えていますか。

 職人さん––まだ銀座のお店がインターナショナルアーケードにあるころ、克さん玲雄さんと初めて喋って、そこからのお付き合いです。オーガニックのダブルガーゼのシャツでした。ラウンドカラーで、ブワッと大きくてギャザーのたくさん入ったシャツでした。最初の打ち合わせの時、克さんがいまでもよくおっしゃる映画、ワイルドバンチ。ここ(ポータークラシックアトリエ)の階段にもポスターがありますよね。ワイルドバンチの話を、克さん玲雄さんにたくさんしてもらいました。正直、そういう感じだと思ってなかったから面食らいましたよ。でも面白いな、すごいな。という記憶が鮮明にあります。オーダーシャツを作っていた頃も、『映画のあんなシャツを作って』なんて言われたことがなかった。僕はワイルドバンチってどんなだろうと、打ち合わせが終わってすぐ見たんですけど、あの映画でシャツに注目するのって、すごいですよ。なんか、見えているものが違います。今でも同じものを見ている感覚がしない時がありますね。ここに注目しているんだって。それはもう驚きでした。

 PC––ロールアップのデビューはそれから3年後ですね。

 職人さん––その時も、克さんの言っていたことは、今と同じですけど、『とにかくたっぷりした、 身幅の広い、大きいもので、アームホールも大きめがいいんだよ。でも着丈はそんなに長くなくていい』と、古着を見ながら『なんかこんな感じのがいい』というお話をいただいたのが始まりでした。ポケットのこともおっしゃっていましたね。『ポケットも鞄だから。大きくて丈夫なのにして、俺文庫本も入れるから』と。それで尚且つ、これも最初から変わっていないのですが、シャツとしての作りは、ちゃんとしたもの、きちんとしたディテールにしてほしいと言われました。そうしてかっちり作り込んだものを、最終的には着込んで洗い込んで行ったときに、なんでもないようなツラにしたい、というね。普通とは逆のことを。

 PC––普通はどのように?

 職人さん––最初からこなれた見え方を狙うカジュアルシャツは、もっと軽い縫製をするんです。運針(縫い目の細かさ)ももっと大きい。けれど、ロールアップシャツはドレスシャツ並みの作り込みです。ステッチもダブルステッチにして、それも全部きっちり入れる、というような。縫製工場さんともたくさん話しました。最初は『それってどういうことですか?』と不思議そうにしていましたよ。でも今ではいわゆる高級シャツの仕立てを、日常で着込んで楽しんでもらうという面白さ、贅沢さをわかって、楽しんでもらっていると思います。

 PC––それは嬉しいことですね。一緒になって挑戦して新しいものを作らせていただけるというのは、とてもありがたいことです。

 職人さん––最初は色々ありましたね。型紙を送った時も、すぐに連絡が来て『なんか型紙おかしいと思うんですけど』って、言われましたよ。『横がすごく広くて、縦が短いんです。アームホールもこんなに大きくて大丈夫なんですか?ポケットも大きいし、取り付け位置も低すぎませんか?』と。合っています。と言っても『本当にこれで?』って、2回3回やりとりしたのを覚えています。おかしかったですね。『こんな大きいシャツ、どんな人が着るんですか?』って。

 PC––10年前はそうでしたね。世の中にこういうバランスのシャツはなかったと思います。

 職人さん––当時はまだ、世の中のシルエットとか、スタイルが、もっとタイトだった。大きめよりは細めの方がかっこいいみたいな時代でしたね。いまでは大きいシルエットのシャツも出てきて一つのスタイルとして定着した感じがしますね。

 PC––面白いですね。それから10年で、何か変わったことはありますか?

 職人さん––最初は背中と袖口にダーツが入っているのですが、数年後にギャザーのタイプが増えました。克さんが好きなギャザーを背中にたっぷり入れてみたいと話があって、作りましたね。それ以外は実はどこも変わっていません。世の中に大きいシルエットのシャツも増えてきていましたし、少し変えてもいいかもなと思うこともありましたが、でもあえて変化してない。というよりも変える必要がなかったですね。襟も小さすぎず、大きすぎずかなり絶妙な大きさだなと思います。襟は時代が現れやすいところで、例えば昔のシャツですと、大きすぎると思うことってありませんか?それが好きならもちろんいいのですが、今着るにはちょっと、と思ってしまうことがあります。でもロールアップは10年変わらずに来れた。そういう意味でもロールアップのバランスっていうのはすごい。さすが克さん、当時あれを良しとしたっていうのは、すごいなって今になっても思います。新しい当たり前を作った。そしてまたここ数年で、どんどん、世の中としてもシルエット大きい方へ変わってきたころで、世の中が追いついたところで、さらに大きいサイズをだす。今、XXXL(トリプルエックスエル)を追加したっていうのが、またすごくいいなと思いますね。

*この原稿はPORTER CLASSIC 2025 S/S カタログ「ハルナツ25」からの抜粋です

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